持続可能な社会を目指す上での重要課題(マテリアリティ)
- 大森
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持続可能な社会を目指すことが企業経営の前提となり、建設業界においても他業界同様、その趨勢にあります。
企業は自分たちが積極的に解決すべき社会課題と、その社会課題を事業を通じて解決するための課題としてマテリアリティ(重要課題)を設定しています。
まずは鴻池組のマテリアリティ設定の背景と内容について教えて頂けますか。 - 佐伯
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持続可能な社会を目指す「重要な課題」ということで、多くのステークホルダーと議論して決めていくべきでしたが、弊社のマテリアリティはそのようなプロセスで決めることができませんでした。
ただ唯一、協力会社の皆様とは討議の場を設けることができ、その際に、「災害の多い日本では防災や減災に取り組むことが建設業界としての役割」とのご意見を頂きました。
その言葉がとても印象的であり、結果、「災害対策及びインフラ老朽化対策」がマテリアリティの 1つになっています。また、多くのステークホルダーと意見交換はできなかったものの、マテリアリティは客観的かつ網羅的に検討して設定しており、 30 個あった候補を 12 個の「重要テーマ」に絞り込んでいます。その中でも特徴的なものは「社会の安心・安全への貢献」です。
自社だけでなく、社会の一員であることを意識し、定めています。
- 大森
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持続可能性の主語を自社に置くのではなく、社会に置いているところが素晴らしいですね。
社会が持続可能となり、その社会の構成員としての企業における重要課題という構造が分かりやすいです。では、翁有建設のマテリアリティもお伺いさせて頂きます。
翁有建設のマテリアリティを設定した背景やこだわったポイントがあれば教えて頂けますか。 - 渡辺(睦)
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弊社はそもそもSDGsとは何かを理解するところからスタートしました。恥ずかしながら、会社を経営していく中でサステナビリティを意識することがそこまで多くなかったこともあり、しっかりと勉強をして自分事として捉えた上で、マテリアリティを設定しようということで討議し、定めています。
我々の事業は専門分野の中でも、型枠工事であり、その観点から持続可能な社会にとって重要な課題を整理しています。
特に当社がこだわった項目は「資源リサイクルの推進」と「従業員の健康と安全配慮」です。
建設業界における持続可能性とは
- 大森
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専門工事(型枠工事)事業者として、調達した資源を3R(Reduce/Recycle/Reuse)の概念に従って取り扱っている点と、コロナ禍もあり、従業員の健康と安全の配慮が必要ということですね。
建設業界においては、従事者の働き方や労働安全は大きな問題として意識されていますので、従業員の健康と安全の配慮は当社だけでなく業界としても重要な課題と思います。
それでは、両社にお伺いします。持続可能な社会における建設業界の位置づけや建設業界の持続可能性についてご意見を頂けますか。 - 佐伯
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SDGsは 2030 年までの意欲的な目標を設定していますので、鴻池組もそのようなことから非財務目標を定めています。例えば、 2030 年の再生可能エネルギー利用率は 80% に設定しています。
一番やってはいけないと注意したことは、「そもそもわが社が存在すること自体がSDGsの達成に貢献している」という自分勝手な論理展開です。
いわゆる SDGs ウォッシュと言われるものですが、まずは自分たちが展開している事業によって社会にどのような負の影響を与えているかを考え、マテリアリティの設定や非財務目標の設定を行いました
。建設業界に限らずですが、特に環境の課題は解決する重要度がとても高いと考えています。その結果が意欲的な目標設定にも表れていると思います。
- 渡辺(睦)
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弊社はまだ非財務目標を明確に定められていませんので、鴻池組の皆さんが設定されたものを拝見し、参考にさせて頂きたいと思います。
ただ、我々は数値目標を定めるとしても、まずは可視化から始めないといけないと思っています。温室効果ガスの排出量や廃棄物量など、現状どのくらいの量を排出しているのかを調べていきたいと思っています。
例えば、使用済みの型枠をバイオマス発電の燃料に使用することを進めていますので、その効果を可視化していくことができたらと思っています。
- 佐伯
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可視化は重要ですね。我々も日建連から現場のCO2 排出量について測定することを求められてきたので、目標値を定めやすかったというのもあります。
従業員の働き方についても建設業界として重要と思っていますが、残業ゼロといった従業員に対する配慮に欠けた非財務目標は避けるようにしました。
社内で話を聞くと「仕事が好き」という方も少なくはなく、不要な残業はすべきではありませんが、残業が必要なときには残業できる勤務体制を取ることが重要と思っています。 - 渡辺(浩)
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残業については労働基準法の改正に従い、弊社も適切に対処していくことが重要と思っています。
今年も高校生の入社や、学生のインターンシップの受け入れを控えていますが、若い世代の方たちにとってはワークライフバランスが重要です。有休消化率を挙げていくことが従業員満足度に繋がると思っており、4週6閉所を早期に実現し、ゆくゆくは8閉所まで目指していきたいと思っています。
このことを絶対条件とすることが若い世代にとっての魅力となると思っています。 - 大森
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Z世代やα世代を未来世代と呼んだりします。日本は少子高齢化のため、生産労働人口が減少傾向にあります。
そのような中、未来世代にとって魅力的な会社となることは、彼らの就職活動の選択肢に入ることを意味します。また、未来世代の特徴として、社会課題解決のために就職される方が多いようですが、建設業界において未来世代の獲得は企業経営上、重要なのではないでしょうか。 - 佐伯
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弊社ではMyESG宣言という取組を実施しており、社員自らが関心の高いESGやSDGsに関する取組を宣言する制度で、若い世代の宣言を見ると、エシカル消費を自ら体現するような宣言も見られ、若い世代こそがESGやSDGsといった取組に熱心なことが分かります。このサステナビリティの分野に関しては、ベテラン社員よりも若い世代の方が頼もしさを感じます。
ですので、今後もこのサステナビリティの活動を続けることが、若い世代にとって魅力的な会社になることに繋がっていくと思っています。
建設業界におけるサプライチェーンの課題
- 大森
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社会課題の解決は1社ではなく、業界やサプライチェーン全体での解決が求められます。
気候変動の影響を財務情報に組み入れる動きとしてTCFDが近年、話題となっていますが、TCFDは温室効果ガスの排出量を自社だけでなく、サプライチェーン全体で捉えることを要請しています。
建設業界においてもサプライチェーン全体で社会課題を解決することが望まれるわけですが、サプライチェーン上にはどのような社会課題があるとお感じですか。 - 佐伯
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弊社はCSR 調達方針を策定しています。
背景としては、 NPOやNGO等のステークホルダーからの監視が強くなっていることがあります。勿論、監視の目がなくても自助努力でサプライヤーに対して適切な調達を進めていますが、建設業界は重層構造になっていることから取引先のさらにその先までガバナンスを効かしていくことが難しい業種です。そこで、弊社はCSR調達方針を策定し、取引先企業に対して広く周知することでCSR調達を実現しています。
現在は依頼に留まっていますが、今後は調査票を配布することも考えています。 - 渡辺(睦)
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弊社はまず、元請け企業からのCSR調達方針に沿っていくことが重要と考えています。
現在、一部の企業から国産材に関する調査依頼等を受けておりますが、今後はこのようなCSR調達要請は高まっていくでしょう。依頼が来てからの対応では遅いので、弊社が本日のようなステークホルダーダイアログを実施していきながら、適切な対応を先んじて進めていこうと思います。
翁有建設への期待
- 大森
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本日は翁有建設のステークホルダーダイアログとして、鴻池組の佐伯さん、石丸さんと対話を行いました。
鴻池組と翁有建設はサプライチェーン上の取引関係にあり、今後、両社が協力し合うことで業界としての社会課題解決が進むと思いますが、最後に鴻池組のお二人から翁有建設への期待や本日の感想をお伺いできますか。 - 佐伯
石丸 - 佐伯・石丸
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本日はステークホルダーダイアログに呼んでいただきましてありがとうございました。
建設業界の中でこのようなサステナビリティの取組を推進されていることが素晴らしいと思っています。
また、取引先からステークホルダーダイアログとして招待を頂いたのは初めてであり、しかも、鴻友会大阪支部の支部長を務めて頂いている翁有建設の渡辺さんからのご依頼との事で、大変うれしく感じておりました。
協力会社の中でもリーダー的な存在である翁有建設の皆さんとサステナビリティに関する内容を対話することができ、とても期待感に満ちています。今後も一体となり、社会課題解決を推進していけたら嬉しいです。 - 渡辺(睦)
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大変ありがたいお言葉、感謝します。弊社はまだ勉強をし始めたばかりであり、皆さまから教えて頂くことも多々あると思いますが、サステナビリティの重要性は理解しています。
今日の対話をきっかけに、今後、鴻池組の皆さんと議論を重ね、建設業界の社会課題を共に解決していけたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。